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樋口 陽一

個人と国家―今なぜ立憲主義か

個人と国家―今なぜ立憲主義か

人気ランキング : 15511位
定価 : ¥ 714
販売元 : 集英社
発売日 : 2000-11

価格:¥ 714
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最近、右よりの人とこんな議論をした。今の政府は、福祉から、教育まで、「自己責任」の美名のもと、その責任を個人に押し付け、その割には、おかしな愛国主義を表に出したり、憲法に国民の義務を盛り込もうとするなど、現今日本は戦後最悪の無責任国家になりつつあり、そんな国に忠誠を誓うことは出来ないと、私は言ったのだが、彼は「おまえの愛国はカルイ」と反論するのである。私が、「ではオモイ愛国とは何か」と問うと、愛国は世俗的なことを超越した概念で、国のためには死ぬことも出来るのが真の愛国であると、彼は言うのだ。私から言わせればそれは、戦前の滅私奉公で、戦後の立憲主義はそのような超越的概念としての国家を否定したところに出発した筈であり、日本国憲法は、それを体言したものだ。現今改憲を支持する政治家・論客は、こぞって戦前の滅私奉公に逆戻りしたがっているように見えるが、それは国家の体力が衰えつつある証拠なのである、という著者の観察は全く持って正しい。「個人の尊厳」「生命尊重」を軽視したり、冷笑したりするシニシズムは、保守的論客や政治家に特に顕著だが、今の日本は憲法や国家の理念、敗戦の意味を十分に議論することなく、改憲の方向に流されている、という著者の指摘はもっともである。この流れを変えるのは今からでも遅くない、ということを再確認できた一冊である。

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著者は憲法学の大家で、とりわけ比較憲法の専門家。著者の主張の中核は、現在の日本では国家が経済的問題について自己の役割を縮小させつつある一方で、精神的問題について自己の役割を肥大させつつあり、これは立憲主義の伝統から見た場合逆ではないかということ。前者として主に念頭に置かれているのは規制緩和やそれに伴う「自己責任」論の高まりであり、後者として主に念頭に置かれているのは日の丸、君が代問題や靖国参拝問題である。
人によっては、こうした著者の主張は「左翼的」なものに思えるかもしれないが、著者の主張の土台にあるのは社会契約論、立憲主義といった「近代知」の本流そのものである。もし著者が左翼ならばアメリカやフランスやイギリスやドイツは軒並み左翼国家になってしまう。他方中国や北朝鮮は全然左翼でないということになるだろう。
ただし、著者の経済的問題に対するスタンスがやや福祉国家に傾斜したものであるというのは事実で、時折見える著者の「反グローバリズム」的立場には、(とりわけ経済学を学んだことのある人の場合)異論を持つ人も多いだろう。
全体に非常に読みやすく書かれているので、これまで憲法を全く学んだことのない人でもストレスなく理解することができる。他方、単なる憲法の入門書ではないので、既に法学部などで憲法をある程度学んだ人が読んでも得るところは大きい。とりわけ、比較憲法の専門家である著者が挙げる豊富な諸外国の事例は、我が国の憲法を広い視野から見ることを可能にしてくれるだろう。なお、口述筆記のため、体系だった記述にはなっておらず、具体的事例に触れる中で、重要な論点を繰り返し提示するスタイルになっている。

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国家を作ったのは人である。人なしには国家は成り立たない。それでは全て個人の責任によって行動すればいいのかといえばそうもいえない。かといって国家がすべて対応してくれるのかといえばそうでもない。
それでは国家という想定をいかにして意識すればよいのか。筆者は立憲主義を柱として国家をあぶりだしていく。
現在の時事問題とはいかなるものなのか。そしてそれらにおける個人と国家はどのような関係を持っているのか。そこにある立憲主義とはなんなのか。日本人と国家の歴史を踏まえて筆が進む。
民主主義と立憲主義の違い、そしてそもそもそれらの間に共通する概念の人権とはなんなのか。全ては当然としてあるものではなく、作り出された概念である。それならばそれを一度は疑わなければその価値は確かめられない。民主主義なら良いのではない、そこに憲法があれば良いのではない、そのような絶対的なものがあるわけではない。立憲主義とはなんなのかを理解して初めて個人と国家の問題に向き合える。そんな一冊。

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冷戦崩壊以降、世界経済のグローバル化に伴って、個人の「自己責任」を強調する動きが加速すると共に、それと同時に「国旗・国歌法」「改正住民基本台帳法」や、「教育基本法見直し」の名の下で、国歌が国民の内心まで操作するようにまでなって行っています。
 以上のようなアベコベな動きは、アメリカの「9・11事件」や北朝鮮による拉致事件以降ますます悪化の一途をたどっていく一方であり、ヨーロッパの先進各国はテロとどう対峙していくかを巡って、様々な議論が展開されていますが、それに対し日本やスペイン、イタリアはアメリカと一蓮托生の運命をたどろうとしているように見えます。それは「有事関連法案」や「個人情報保護法案」が「テロとの戦争」との名目であれよあれよと議会を通過して?!??く、と言うおぞましい現実に如実に現れています。
 それに対してかねてから批判的である著者が、今までの岩波新書から集英社新書に舞台を移し、「です、ます」調の文体で近代国家とは何か、そして、グローバル化する社会の中で個人が尊重される社会とするために、「立憲主義」の大切さを強調すると言う内容の一冊がこの新書です。
 著者は新自由主義の名の下で、経済面では「自己責任」を強調する一方で、精神面では国民を「国家の忠実なる僕」にする動きに対して、「それは全く以ってあべこべな事である。」と批判します。更に「テロとの戦い」等の「正義の名の下での戦争」のダブルスタンダードぶりを批判します。そして、個人が個人として尊重される為の社会を築き挙げる為に、「日本国憲法の普遍的価!値」を強調します。
 多国籍企業の無法ぶりが横行する一方で、国家による国民の管理が進む現状を批判する一方で、個人の自由と尊厳を擁護したい方にとっては、一読に値する本であることは保障します。

 
 
 
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2006年7月15日17時36分
時点のものです。

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